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「クローン、是か非か」

  序

 ロスリン研究所のイアン・ウィルムットと共同研究者たちが、雌ヒツジの乳腺細胞からのクローン作成に成功した(ドリーと命名)と発表したとき、いたるところで激しい感情的反応が起きた。クローニングの実験は、少なくとも40年以上行われてきたわけだが、ドリーの出現によって、近い将来、ヒト・クローンの可能性に直面せざるを得なくなることがはっきりしたことが問題なのだ。これは、まだ思考実験にすぎないが、それでも動物クローンができたという事実以上に、人々の不安をかき立てるものがある。誰でもとは言わないまでも多くの人は、クローニングは人類の歴史におけるあるターニングポイントを象徴すると考えている。今後の見通しについては、警戒心を持つ人、嫌悪を感じる人、喜ぶ人、これまでの生命観がいずれ通用しなくなるだろうと嘆く人などさまざまだ。もちろん、この事態を冷静に事実として受け入れ、恐ろしいことと決めつけずに、科学の自然な発達に任せるべきだと主張する人もいる。とにかく多くの人が、さまざまな疑問を投げかけたのだ。

クローン、是か非かクローン、是か非か
(1999/08)
マーサ・C. ナスバウム、

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以下のような構成になっていました。

第一部:解説(生物学)
第二部:批評(人文科学・社会学)
第三部:規範(倫理学・宗教学)
第四部:政策(経済学・社会学・法律学)
第五部:フィクション(短編小説2編・詩1編)

 非常に広く扱われているので、専門家でないならば、クローンに関してはこの1冊で十分ではないかと思った。基本的なことは大体分かったし、フィクションまで収録されてて、しかもそこそこ面白かった。さすがに詩は斜め読みしてしまったが。

以下、目に留まった点

p157 社会政策や法律は、重大なリスクが見込まれるときや、子どもが深刻な遺伝病にかかっていることがはっきりしているときでも、親が子どもをつくり、妊娠を続けることを許容している。それは倫理的に間違いだと他人が思ったとしても、親にはそれを続ける生殖の自由がある。クローニングに危険がともなうといっても、それは、遺伝病が子どもに受け継がれる危険度より低いと言える。

 まだ研究が揃っていないだろうが、遺伝病より危険は少ないというのは有り得ると思う。

p160 カリフォルニアのアヤラ夫妻は、白血病に冒された十代の娘を救おうと、骨髄ドナーにするため、第二子をもうけた。おなかにいる子どもがドナーになれなくても、その子自身を愛し尊重しよう、他の家族と同じように扱おうと、夫妻は話し合った。下の子を欲しがったのは、上の子の命を救いたかったからだが、だからといって、下の子をその子自身として愛さなかったり、尊重しなかったりするわけではない。

 話題になりましたね。これが有りならクローンも有りとしてよいものかどうか。

p173 たとえば親であれば、自分の子どもの中にある、どんな人にも備わっている本質的な価値と、特殊な性質や能力に基づく道具的な価値とは区別できる。全ての人に認められる倫理的な価値や人格と、個人によって違う道具的な価値とは、重なる部分がまったくないわけではない。アインシュタインと、才能に恵まれない物理専攻の大学院生では、科学者としても価値は天と地ほど違うが、人間としては同じ倫理的価値と尊厳を与えられている。これら二種類の価値と尊厳を一緒にしてしまうのが、混乱のもとなのだ。一人の人間から大量のクローンをつくることにより、その傾向が助長されるのならば、やはり一人からつくるクローンの数を制限しなければならない根拠となる。

 混乱のもと、までは同意だけどその後はよく分からない。

p212 当時の哲学者、宗教学者の多くが(ジャック・マリタンなど、文書作成に参加した何人かの学者も含めて)、ある人権が「基本的」であるという全会一致の理由が見つからなかったのを非常に残念がった。それからほぼ五十年たった今でも、それよりはるかに複雑なヒト・クローニングについての倫理的問題に、万人の合意を得られると真面目に考えている人がいるのだろうか。この議論にあたっては、人権についてだけでなく、人間を真に人間たらしめる意味について熟考する必要がある。1948年当時よりも、はるかに多様で複雑になったグローバルな状況の中で、何らかの社会的コンセンサスを得られるものだろうか。具体的な処置の選択である。禁止するべきか、一定の猶予期間をおくべきか、走力を上げて研究をおしすすめるべきかという判断だって難しい。議論に参加する人の範囲を広げることくらいしか考えられない。そのためにはまず、科学者ではない私たち一般人が、実験法や技術、そして実際に何が起こったのかをよく知ることが必要だ(クローンについてメディア―少なくとも活字メディア―は、平易な言葉で、よくわかるように説明してくれた)。次いで、この問題に関係のある全集団を議論に参加させよという、クリントン大統領からの委員会への命令を支持することだ。
※ 1948年世界人権宣言

 なるほどねぇ、確かにコンセンサスは難しいだろうなぁ。どうなっていくのでしょうね。

p273 遺伝子が同じために不和の起こりにくい(一卵性双生児のように)クローンが力を合わせれば、財産をどんどん増やせるので家族が増えても分配は減らないという考えもある。

 遺伝子が同じだからといって不和が起こらないのだろうか。一卵性双生児の実験や調査で証明されているのだろうか。あやしい。

p286 ところで、人間をクローンでつくれることになって、不妊が集団全体に広がるのは恐れるべきことなのだろうか。前に述べたように、進化という観点から、有性生殖が無性生殖より優れているのは、遺伝子が混ざりあうことで、未来の世代を共進性の寄生体から守れることだ。誰もが自分をクローンするようになったら、未来世代が有する遺伝的多様性は、現世代と同じである。そうなると、現世代の免疫的な防御機能をうち負かす能力を、進化によって身につけた寄生体が、そのまま未来の人の脅威となる。そしてクローンを何人もつくる人と、まったくつくらない人が現れると、将来の遺伝的多様性は現在よりも減ってしまう。遺伝的多様性はワクチンのようなもので、寄生物の蔓延に対する防御壁となる。ワクチンの投与を拒否する人と同じで、自分のクローニングをしようとする人は、自分の行動にどんなツケが回ってくるかわかっていない。医術が、寄生体と同じスピードで進化しない限り、時間の経過とともに、人類は病気に対してどんどん弱くなっていくだろう。

 これは非常に進化生物学的な意見で、かなり的を射た意見だと思う。しかし、これを一般の人に広く理解させるのは難しいんだろうなぁ。ワクチンを拒否する人の例よりも、抗生物質を必要最小限に抑えるのに理解を示さない人の例の方が適切かと。
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theme : 哲学/倫理学
genre : 学問・文化・芸術

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 進化生物学を学ぶアマチュアです。本業は数学教師です。ほとんど自己満足の日記と化してますが、コメントどんどん下さい。質問・議論・アドバイスも歓迎です。

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