日本でも話題になったミツバチの失踪事件?その理由を追うドキュメンタリータッチの本で、学術書という感じではない。そこそこ読みやすいと思う。はっと気づかされる記述も多く、非常に面白かった。高校生くらいの読書感想文や小論文の題材に丁度いいかも。
ただ、日本語版タイトルがいただけない。原題は"Fruitless fall"「実りなき秋」って感じですかね。最近、高校生の英語の教科書にもよく載っている
『沈黙の春』これの原題は"Silent Spring"です。きっとこれにかけてタイトルを付けたろうに、日本語版の編集者はセンスがない。
久しぶりに結構面白かった本であることは間違いない。食料という身近な問題であるということもあるし、ミツバチ自体身近な生物だし。ほんとにしゃれにならない事態になる可能性あるもんね。
さて、memoです。
p29 私たちが口にする食物の実に80%が花粉媒介者のお世話になっているのだ。あなたの食べる牛肉も、草で育てられたとすれば、おそらく昆虫が受粉した植物を飼料にしていることだろう。石油と繊維産業を抱えるアメリカ南部有数の農産物である綿花も忘れないでほしい。綿花畑も、最近はじめて、豊作を確実にするためにミツバチの巣箱を借りなければならなくなった。
これ、すごいわ。全然気がつかなかった。人に話したくなる話だよね。
p56 蜂の社会では、「みんなは一人のためにあり、一人はみんなのためにある」
これ、ラグビーでよく言われますね。きっと"One for All, All for One"でしょうね。
p84 蜂の異常行動よりさらに奇妙だったのは、ふだん蜂の巣を襲う外敵の行動だった。蜂蜜のつまった蜂の巣は、エネルギーを手っ取り早く手にできる究極のごちそうだ。巣には、無数の蜂が数億個の花から集めてきて、すぐに食べられるように加工した10万キロカロリーもの蜂蜜が詰まっている。ハチノスツヅリガからクマにいたるまで、捕食者はこの誘惑にさからえない。彼らを唯一遠ざけるものは、巣内にうごめく五万匹の毒針を持った兵隊だ。この兵隊がいないとすれば、奪略者たち、とりわけ他の蜂たちは、あっという間に巣に押し寄せて、手当たり次第に巣を荒らすはずだ。
10万キロカロリーか、そりゃすごいわ。誘惑に逆らえないわ。
p218 もしあなたの祖先が私の祖先と同じようにヨーロッパからやってきたのなら、その人たちは、おそらく黒死病を生き残った人々だったろう。天然痘も生き残ったかもしれない。私たちがいまここに存在しているのだから、祖先は運がよいほうの人だったことは明らかだ。疫病が不幸な出来事以外のなにものでもないことに反論を唱える人はいないだろう。それと同時に、疫病が去ったあとには、復元力の強い遺伝子を持つ人たちがあとに残るという事実も否めない。かつて私たちの免疫系が守りについていた最前線を抗生物質と消毒液が守るようになった今日、私たちはおそらく過去数百年でもっとも流行病に弱い立場にいるに違いない。
イタリアのミツバチは、何十年にもわたって、復元力とはほとんど関係のない特質を伸ばすように交配されてきた。伸ばしたい特質のトップを飾っていたのは蜂蜜生産能力で、仲間を増やす力も同じぐらい乞われていた。性格の穏やかさも欠かせない要素だった。自立に資する特質、すなわち寄生虫や病気への抵抗力、越冬能力、餌が少なくても耐えられる力などは、あまり重要視されなかった。というのは、このような問題は、石油化学に頼って解決したほうが効率がよかったからだ。
よく言われることだが確かに弱くなっている気がする。アレルギーとかもそうだけど、すぐに肌が荒れたり、現代っ子は無菌状態で育てられて抵抗力が弱いってこともありますよね。
ハチもそうか。確かに人為選択によって何らかの能力が弱くなることは論理的にはありうることだ。
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